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イタリアの女性ピアニスト、マリア・ティーポが弾くショパンのノクターン全曲が収められたCDを入手しました [私の好きなピアニスト]

今日の朝、出社すると郵便物が届いていました。急いで開封すると、中に入っていたのは先日、ネットオークションで落札した、イタリアの女性ピアニスト、マリア・ティーポ(Maria Tipo 1931年~)が1993年、94年に録音したショパンのノクターン全曲(CD二枚組、UKプレス フランス盤)でした。

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マリア・ティーポ「ショパンのノクターン全曲」(CD二枚組、UKプレス フランス盤)

実は私は、彼女の弾くショパンのノクターンのCD(国内盤)を一枚持っていて、これまで愛聴していたのですが、こちらは選集でして(第11番〜14番、17番〜19番が未収録)、いつか全集を入手して聴いてみたいと願っていました。今回、やっと、こうして入手できたという訳です。

ショパンのノクターン(全曲)の演奏ですと、最近ではチュニジア出身のフランスの女性ピアニスト、ブリジット・エンゲラー(Brigitte Engerer 1952~2012年)の録音(1993年録音、CD二枚組)を好んで聴いていたのですが(このCDを入手したときの記事はこちら→https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2021-06-10、マリア・ティーポの演奏はこれに劣らないというか、更にロマンティックかつダイナミックな、ピアニスティックで音楽性溢れる表現に魅了されます。ショパンのノクターン全曲の決定盤といって良いかと思います(ちなみに私が色々なピアニストによるショパンのノクターン演奏について書いた記事はこちら→https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2014-08-28

マリア・ティーポのレコード・CDは、その多くが現在では入手が困難で、中古レコード・CDショップや今回のようにネットオークションなどに頼らざるを得ないのですが(彼女のCD・レコードはとても人気があるのか、ネットオークションでは高額の値付けがされている場合が多いです)、どの演奏も、本当に素晴らしいもので、外れがありません。私の今、一番お気に入りのピアニストです。

ちなみに、私はこのブログで、これまで何回も、彼女のCDやレコードを紹介しています。もし良かったらそれらの記事も読んでみて下さい。

「今頃になって、マリア・ティーポというイタリアの女性ピアニストを知りました(1)」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2020-06-29
「今頃になって、マリア・ティーポというイタリアの女性ピアニストを知りました(2)」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2020-08-04
「横浜の中古レコードショップでとても珍しいレコードを手に入れました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2021-05-04
「ネットオークションでイタリア人ピアニスト、マリア・ティーポのCDを運良く安価で入手しました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2021-05-17
「またまた、イタリア人ピアニスト、マリア・ティーポのCDを入手しました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2021-05-28
「マリア・ティーポが弾くクレメンティのソナタ集のレコードを入手しました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2021-06-09
「マリア・ティーポの弾くモーツァルトピアノ協奏曲集のCDを入手しました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2021-09-16
「マリア・ティーポが弾くシューマンの作品集のCDを入手しました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2022-01-27
「イタリアの女性ピアニスト、マリア・ティーポが弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲の演奏を聴きました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2022-03-04
「一泊二日で大阪に出張しました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2022-04-19


こちらはYoutubeにアップされている「Maria Tipo - Nocturnes: C-Sharp Minor, Op. Posthomus, Chopin」


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リヒテルが遺したバッハの平均律の録音について [私の好きなピアニスト]

以前、記事で、20世紀を代表する名ピアニストであるスヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter 1915〜1997年)が1991年に遺したバッハの諸作品の録音を紹介しましたが、リヒテルのバッハといえば、何といっても1970年から1973年にかけて3年がかりで録音された平均律全集が特に有名かと思います。

「リヒテルが1991年に遺したバッハの諸作品の録音について(1)」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2022-03-25
「リヒテルが1991年に遺したバッハの諸作品の録音について(2)」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2022-03-28
「リヒテルが1991年に遺したバッハの諸作品の録音について(3)」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2022-03-29

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リヒテル「平均律クラヴィーア曲集」(CD4枚組)

バッハの平均律クラヴィーア曲は音大ピアノ科の一次試験の課題曲となることが多く、受験生にとっても、このCDは必携のものとなっているようですが、クラシック音楽ファンにとっても、まさしく音楽芸術の至宝ともいうべきものかと思います。

リヒテルの平均律の録音については、ライブCDも遺されています。これは1973年7月、8月、オーストリアのインスブルック、ヴィルテン少年合唱団の本拠地としても知られるヴィルテン修道院付属教会でのもので、当時、リヒテル自身が放送録音から選んだシリーズで日本で発売されたものの、すぐに廃盤となってしまい、まさに「幻の録音」となっていました。その後2010年に正規中国盤(JVCライセンス盤)が発売され、それが一部、日本にも入荷されたことから(今ではオークションや中古CDショップでしか入手できないながらも)入手はなんとか可能なものとなっています。

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リヒテル「平均律クラヴィーア曲集 インスブルック・ライブ」(CD4枚組)

私は恥ずかしながら最近になって、このライブ盤のことを日経新聞の日曜版「NIKKEI The STYLE」の記事で知り、慌てて中古CDを安価で入手、ここ一ヵ月ばかり、良く聴いています。このライブ盤は、スタジオ録音と較べると(テンポの緩急や表情の起伏が大きく)トータルでが約19分も短く、ライブならではの迫力あるものとなっています。いやあ、こちらも素晴らしいですね。しかし、何という録音なのでしょう。あまりに曲、そして演奏のスケールが大きすぎて、一気に聴くのが憚られてしまいます。これを実際に聴いた聴衆はどんな気分だったのでしょう。果てしない宇宙空間に独りで漂っているような感じだったのかもしれません、ちょっと想像できないですね。

是非、機会があれば、こちらのライブ盤も聴いてみて下さい。残念ながら当盤自体はYoutubeにアップされていませんが、第一巻のみですが、1969年4月におけるモスクワでのライブ音源は聴くことができます。こちらも聴く人間の力が試される物凄い演奏かと思います。


こちらがYoutubeにアップされている「J.S. Bach, The Well-Tempered Clavier, Book 1 / Sviatoslav Richter ( 1969 )」。April 20 & 21, 1969 Live Recording, Great Hall of the Moscow Conservatoryとのことです。


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リヒテルが遺したラフマニノフの前奏曲集の演奏について [私の好きなピアニスト]

以前、「リヒテルについての思い出」そして三回に亘って「リヒテルが1991年に遺したバッハの諸作品の録音について」と題した記事を投稿しましたが、アルトゥール・ルービンシュタイン(Arthur Rubinstein 1887〜1982年)、ウラディミール・ホロヴィッツ(Vladimir Horowitz 1903〜1989年)と並んで、20世紀最高のピアニストと称されるスヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter 1915〜1997年)が遺した多くの録音の中でもバッハと並んで最良のものの一つが、ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov 1873~1943年)の前奏曲(抜粋)の録音です。

特に1971年、リヒテルが56歳の時にザルツブルクのクレスハイム城で録音した前奏曲集(13曲)は名演の誉れ高いものです。私はこれまで国内盤としてビクターから発売されたレコード、そしてその後、英オリンピア盤での、1984年のミュンヘンでの録音「音の絵」全18曲のなかから9曲の録音と共に収められたCDなどで、折にふれて聴いてきました。ちなみにこの英オリンピア盤は現在は入手困難ながらも、現在ライセンスを取得しているアルト・レーベルから同じものが発売されています。また、このCDに収められている「音の絵」の演奏も素晴らしいものです(ちなみに無類のクラシック音楽好きで知られる日本共産党の志位委員長も以前、紹介した雑誌「BRUTUS」のクラシック音楽特集の中で、リヒテルのこの曲の演奏を推薦していました。私がこの雑誌について書いた記事はこちら→https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2020-06-01)。

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こちらは私が横浜の自宅に保管している国内盤のCD。既にオリンピア盤を持ってはいたものの、この国内盤レコードと同じジャケットデザインが懐かしくて、CDまでも中古で入手してしまいました(汗)。ちなみに私の持っているのはリマスター盤です。

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そしてこちらがオリンピア盤。前奏曲については同一録音です。

また、1960年に行なわれたリヒテル(当時45歳)のアメリカ・デビュー・ツアーでのカーネギーホールでのラフマニノフの前奏曲の録音(選曲は1971年のものと同じ)も遺されています。私はこのカーネギーホールでのライブ音源(CD6枚組)も持っているのですが、演奏自体は素晴らしいものながら、(1971年の方が録音状態が良いので)専ら1971年の方を聴いています。ただ、1960年盤もライブということもあって、独特なテンションと観客の熱狂状態が伝わってくるのでこちらも必聴と言えるかもしれないです。

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こちらが私が持っている1960年のアメリカデビュー、カーネギーホールでのライブCD(CD6枚組)。たしか購入したのが1990年代、私がドイツに赴任していた時ですので、表にはっている値札はドイツマルクですね。それにしても6枚組にしてはとても安いです。当時の私は、この安さにつられて購入したものと思われます(汗)。

他にも1959年録音の、1960年と1971年には録音されていない前奏曲2曲の録音もあるとのことですが私は未聴のままとなっています。

リヒテルの弾くラフマニノフの前奏曲は、その圧倒的にスケールの大きな、ダイナミックレンジを広い、完全に曲を掌握しきった演奏となっているのが特徴でして、ラフマニノフのピアノ芸術の極致と言っても良いものとなっています。他のピアニストの演奏と聴き比べてみると、リヒテルの演奏の方が遥かに恰好良いことに気付かれるかと思います。何回聴いてもしびれます。これを超える演奏はもう現れないのではないかと思わせるものがあります。

もし、聴いてないようでしたら是非、一度聴いてみて下さい。20世紀のピアノの芸術遺産の中でも最良のものかと思います。


こちらがYoutubeにアップされている「Rachmaninov - Preludes - Richter studio 1971」


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リヒテルが1991年に遺したバッハの諸作品の録音について(3)  [私の好きなピアニスト]

前々回、そして前回の記事で「リヒテルが1991年に遺したバッハの諸作品の録音について」と題した記事を投稿しておりますが、今回はフィリップス盤、ストラディバリウス盤に続いて、Live Classicsやその他のレーベルから出ているものについてご紹介したいと思います。

Live Classicsからは、1991年11月2日のオランダと同年5月22日、7月1日のモスクワ、チャイコフスキー・コンサートホールでのライブ音源がCD2枚に纏められています。オランダでのライブからはソナタ(BMV963)、トッカータ第1番、カプッチョ(BMV993)、四つのデュエット、イタリア協奏曲とファンタジア、モスクワでのライブからはカプッチョ(BMV992)とフランス組曲第2、4、6番の演奏が収録されていて、これらは録音状態も良いもので、ライブならではの緊張感に満ちた、素晴らしい演奏です。特にフランス組曲の方は聴き進めるほどに、どんどん気分が高まってくるような演奏となっていて、強い感動を覚えるものとなっています。

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こちらがLive Classics盤(CD2枚)

これとは別にGREAT HALLというレーベルからは1991年5月20日のモスクワ、チャイコフスキー・コンサートホールでのライブから、イギリス組曲第1, 3, 4, 6番がCD2枚に纏められて発売されているのですが、こちらは何故か残響が少なく、デッドな感じの録音となっていて状態があまり良くないので(私はこの演奏をインターネット音楽配信サービス「Spotify」で聴きました)、こちらを聴くよりフィリップス盤、ストラディバリウス盤での同曲の演奏の方がはるかに聴きやすく、良いかと思います。

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こちらがGREAT HALL盤(CD2枚組)

以上が私が知る限りのリヒテルが1991年に遺したバッハの諸作品の録音となります。晩年のリヒテルのバッハ演奏は、なんと言えばよいのか「神性」ともいうべきものに満ちた素晴らしいものばかりです。これらは人類の貴重な芸術遺産として長く伝えられるべきものだと思います。


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リヒテルが1991年に遺したバッハの諸作品の録音について(2) [私の好きなピアニスト]

前の記事から「リヒテルが1991年に遺したバッハの諸作品の録音について」と題した記事を投稿しておりますが、前回のフィリップス盤に続いて今回はストラディバリウス盤についてご紹介したいと思います。イタリアのクラシック音楽レーベル、ストラディバリウスからは、チェコやハンガリー、スイス等でのライブ音源やイタリアでのスタジオ録音がCD(四枚)に纏められています。どの盤も録音も良く、入手は少々困難なものの、フィリップス盤と同様、万人にお勧めできる録音となっています。

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こちらがストラディバリウス盤の四枚

収録されている曲はフィリップス盤を重なるもの(録音日時は異なります)が多いのですが、1991年6月にイタリアでスタジオ録音されたソナタ三曲(BWV 963,964,966)とカプッチョ(BWV 993)、イギリス組曲第一番といった、フィリップス盤では収録されていないバッハ作品の演奏を聴くことが出来るのが特徴です。

中でも、「Sviatoslav Richter Un Homme DE Concert 3」に収められている、(先に述べた)ソナタ三曲(BWV 963,964,966)とカプッチョ(BWV 993)の演奏、そして「Sviatoslav Richter Un Homme DE Concert 5」に収められている、1991年4月のチェコスロバキアでのライブ音源であるイギリス組曲第4、6番の演奏は、特に素晴らしいものです。例えばイギリス組曲第4、6番のサラバンド、第6番のドゥーブルといった、静かな曲におけるリヒテルの落ち着いた演奏は、まさに「深遠」という言葉がぴったりなもので、聴いているものを深い瞑想へと誘ってくれます。その余りに広大な音世界、沈黙こそが語る音楽表現には深い感動を覚えます。

是非、機会を見つけてこれらの演奏を聴いてもらいたいと思います。ここには、まさにバッハのピアノ演奏の極致が示されています。


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リヒテルが1991年に遺したバッハの諸作品の録音について(1) [私の好きなピアニスト]

以前の記事でも簡単に紹介しましたが(その時の記事はこちら→https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2022-03-17、20世紀を代表する名ピアニストであるスヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter 1915〜1997年)は、1990年以降、リサイタルでの演目にバッハのフランス組曲、イギリス組曲をはじめとするバッハの諸作品を頻繁に加えるようになりました。特に1991年(当時、リヒテルは75〜76歳)にはバッハの作品を欧州各地やモスクワの演奏会で集中的に演奏し、多くのライブ録音やスタジオ録音が遺されています。

これらの演奏は、フィリップス、ストラディバリウス、そしてLive Classicsなどのレーベルから出ているのですが、今回はフィリップス盤についてご紹介したいと思います。フィリップスでは、ドイツのボン/ロランドセック(1991年3月)とノイマルクト(1991年11月)でのライブ録音がCD三枚に纏められています。たしかこのCDセットを入手したのは(私がドイツに赴任していた)1990年代半ばかと思うのですが、それ以来、25年以上の長きに亘って、今でも私(そして妻)の愛聴盤となっています。

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こちらが私が持っている「Richter The Authorised Recordings BACH」(CD三枚組、フィリップス)。現在は分売もされています。

この録音は状態も良く、また、入手しやすいこともあって、晩年のリヒテルのバッハ演奏を聴くのに最適なものかと思います。イギリス組曲第3、4、6番、フランス組曲第2、4、6番(リヒテルはフランス組曲についてはなぜか偶数番の曲のみを演奏しています。なぜ奇数番号の曲を演奏しなかったのかは謎のままです。)、そしてトッカータ(2曲)、ファンタジア、イタリア協奏曲、フランス風序曲、四つのデュエットが収められているのですが、どれも、本当に素晴らしい演奏でバッハの深淵な音楽世界を存分に堪能することができます。

リヒテルのバッハ演奏の特徴といえば、やはり、その超広大なスケール感です。聴いているうちに自身がまるで宇宙空間に放り出されているような不思議な感覚をいつも味わいます。こんな気分を感じさせるのはリヒテルだけです。バッハのピアノ演奏における音楽芸術の極致といって良いかと思います。もうこれまで何十回も聴いているかと思うのですが、まったく飽くことがありません。

是非一度、これらのリヒテルの録音を聴いてみて下さい。クラシック音楽を鑑賞して本当に良かったと実感されるかと思います。


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リヒテルについての思い出 [私の好きなピアニスト]

旧ソビエト連邦のピアニスト(とはいえリヒテルの父はドイツ人でして、母はロシア人ですが彼自身はウクライナの生まれです)であるスヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter 1915〜1997年)が、その晩年となる1991年(当時、リヒテルは75〜76歳)に遺したスタジオ録音や、同年に欧州各地やモスクワの演奏会にてバッハの諸作品の多くのCD化されたライブ音源を、最近になって良く聴いています。どれも本当に素晴らしいものばかりでして、これらについては今後、記事で紹介しようと思っているのですが、今回は、アルトゥール・ルービンシュタイン(Arthur Rubinstein 1887〜1982年)、リヒテルと同じウクライナ生まれのウラディミール・ホロヴィッツ(Vladimir Horowitz 1903〜1989年)と並んで、20世紀最高のピアニストと称されるスヴャトスラフ・リヒテルについての、私の極個人的な思い出を二つほど紹介したいと思います。

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スヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter 1915〜1997年)のポートレート。これはWikipediaに載っているものです。

一つは1984年2月28日、リヒテルが東京都世田谷区太子堂にある昭和女子大学人見記念講堂でコンサートを行ったとき(その時の演目はシマノフスキーのピアノ・ソナタ第2番とドビュッシーの前奏曲第1巻からの抜粋だったようです)のことです。私はまだ大学生でして音楽事務所のバイトとして会場の設営や運営の手伝いをしたのですが、演奏を終え、会場を出ようとするリヒテルとばったり遭い、そこで握手をさせていただいたことがあります。彼の手は本当に大きく、握手をしたときの、とても柔らかくて温かい感触は今でも覚えています。

そして二つ目は1993年9月5日、私が31歳でドイツ、デュッセルドルフに赴任していたときに、デュッセルドルフにあるコンサートホール「トーンハレ」で、妻と共に最晩年のリヒテルのピアノリサイタルを聴いたとき(注)のことです。途中、バッハの曲(多分、「幻想曲、アダージョとフーガ ハ短調 BWV 906/968」だったかと思われます)を演奏していた時に、楽譜が頭から飛んでしまったのか、リヒテルが急に演奏を中断してしまうというハプニングがありました。リヒテルは、椅子から立ち上がり深々と頭を下げ、ドイツ語で観客に向かって謝った後、再度、同じ曲の演奏を再開しました。その再開後の超本気になったリヒテルの演奏の素晴らしかったこと。リヒテルの弾く音が次々とホールに宙に舞いながら、そして、それらが見事に重なり合った一つの音宇宙を目の前で、まるで立体的に視ているような不思議な感覚に囚われたのは、この時だけです。

(注)ちなみにその時のプログラムは
バッハ 幻想曲 ハ短調 BWV.921
バッハ 前奏曲、フーガとアレグロ 変ホ長調 BWV.998
バッハ 幻想曲、アダージョとフーガ ハ短調 BWV.906/968
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ ハ短調 作品13 「悲愴」
シューベルト さすらい人幻想曲
だったようです。リヒテルのコンサート情報につきましては、TANUPON氏「リヒテルさんのお部屋」(http://www.ne.jp/asahi/ponpoko/tanuki/richter_room.htm)の「リヒテルさん年表」を参照、参考にさせて頂きました。本当にありがとうございました。

当時のトーンハレは、元々プラネタリウムだったこともあって、天井が非常に高く、コンサートホールとしては音響的には少々問題があったのですが(その後、2005年に改築、改装され音響についても素晴らしいものになったと聞いています)、それが逆に、上層階で聴いていた私に、このような体験をさせたのかもしれません。繰り返しになってしまいますが、本当に目の前でそれぞれの音が、まるで天使のように飛び交いながら、私の目の前で舞い続けたように感じられました。あの時のゾクゾクするような、そしてあまりの凄さに思わず叫びそうになった感覚だけは忘れることはできません。

こうして昔の思い出を辿ってみると、私にとってリヒテルが特別なピアニストであったことに改めて気付かされます。ショパン、シューマン、シューベルトもさることながら、晩年の彼が弾くバッハは、誰もが辿り着くことができない、一つのピアノ芸術の極地を示していると思います。リヒテルのバッハ演奏を知り、こうして遺された録音を聴くことができることは、私の一生の喜びです。


こちらはYoutubeにアップされている「Bach - Prelude, Fugue & Allegro BWV 998 - Richter Bonn 1993」。1993年9月7日、ドイツ、ボンのベートーヴェンハウスでのライブ音源です。


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イタリアの女性ピアニスト、マリア・ティーポが弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲の演奏を聴きました [私の好きなピアニスト]

今週の水曜日に会社に出社すると、週末にネットオークションで落札した中古CDが届いていました。

今回、私が入手したのは、ハンス・グラーフ指揮ロンドン交響楽団の下、イタリアのナポリ出身の女性ピアニスト、マリア・ティーポ(Maria Tipo 1931年~)が弾く、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第一番、第四番が収められたCDです。まずは第四番の方から聴き始めたのですが、その見事な演奏に、私はすっかり魅了されました。

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ハンス・グラーフ指揮ロンドン交響楽団、マリア・ティーポ(p)「ベートーヴェンのピアノ協奏曲第一番、第四番」(CD、EMI)

これまで何度も記事にしていますが、マリア・ティーポは私の大好きなピアニストです。その演奏はイタリア人らしい明るく骨太かつ豊かな音楽性に溢れたもので、飽きることがありません。今回入手した演奏は(前に記事にしたモーツァルトピアノ協奏曲集のCDと同様)彼女が60歳位のころのものとなるのですが円熟したもので、「中庸」という言葉がぴったりの素晴らしいものとなっています。

彼女のピアノの「音」はしっかりとした芯がありながらも、丸みを帯びた、美しくそして豊かなものです。そして彼女の演奏を聴いていて常に感じるのは、見事にコントロールされた豊かで情感溢れる「歌心」です。これは彼女のバッハやモーツァルト、クレメンティやショパンの演奏にも共通するのですが、とても何のけれんみもなく、とても自然で、心の奥底から発されているように感じられるところが彼女の最高の魅力かと思います。

残念なことに、現在、彼女の演奏が入手困難となっており、このCDについても、当初は5百円で出品されていたのですが、結局5千円近くまで競り合って何とか落札することができました。もっと、気軽に入手することができるようになることを祈るばかりです。インターネット音楽配信サービス「Spotify」でも、彼女の、バッハ、モーツァルト、クレメンティの演奏は聴くことができるものの、このベートーヴェンや、彼女の一番素晴らしいところが堪能できると信じて疑わないシューマンの演奏は聴くことができません。ただYotutubeでは彼女の多くの演奏がアップされており、楽しむことができます。

こうして私は久しぶりにベートーヴェンピアノ協奏曲を聴きました。第一番こそ、以前テレビで聴いた「NHK クラシック音楽館 ベートーベン250 名手たちの饗宴」で放送されたマルタ・アルゲリッチの演奏に比べてしまうと物足りないと感じるところもありますが(この演奏を聴いた時の記事はこちら→https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2021-01-26、第四番についてはこれまで聴いたピアノの中でも一二を争うものかと思います。是非、機会があれば聴いてみて下さい。後悔しないことをお約束します。


こちらはYoutubeにアップされている「Maria Tipo plays Beethoven Piano Concerto n.4 op.58 (Mov I Part 1)」。この1992年のミラノにおけるライブ映像は他に第一楽章(Part 2)と第二楽章、第三楽章の全ての演奏がアップされています。また本文で紹介したCDの演奏もYoutubeには第一番、第四番共にアップされていますので、是非、検索して(「maria tipo beethoven」で検索すると見つけられます)聴いてみて下さい。

また、私がこれまでマリア・ティーポのことを書いた記事はこちらです、もし良かったら読んでみて下さい。
「今頃になって、マリア・ティーポというイタリアの女性ピアニストを知りました(1)」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2020-06-29
「今頃になって、マリア・ティーポというイタリアの女性ピアニストを知りました(2)」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2020-08-04
「横浜の中古レコードショップでとても珍しいレコードを手に入れました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2021-05-04
「ネットオークションでイタリア人ピアニスト、マリア・ティーポのCDを運良く安価で入手しました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2021-05-17
「またまた、イタリア人ピアニスト、マリア・ティーポのCDを入手しました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2021-05-28
「マリア・ティーポが弾くクレメンティのソナタ集のレコードを入手しました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2021-06-09
「マリア・ティーポの弾くモーツァルトピアノ協奏曲集のCDを入手しました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2021-09-16
「マリア・ティーポが弾くシューマンの作品集のCDを入手しました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2022-01-27


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マリア・ティーポが弾くシューマンの作品集のCDを入手しました [私の好きなピアニスト]

今日、会社に出社すると私宛に郵便物と宅配便がそれぞれ届いていました。宅配便には、以前、記事で紹介したフランスの女流クラブサン奏者、ブランディーヌ・ヴェルレ(Blandine Verlet 1942~2018年)が、フィリップスに行ったすべての録音を纏めたCD14枚組のBOXセットが入っていて(このCDについて書いた記事はこちら→https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2022-01-24、郵便物の方には先日、ネットオークションで落札したイタリアのピアニスト、マリア・ティーポ(Maria Tipo 1931年~)が1987年にパリで録音した、シューマンの「子供の情景 Op.15」「花の曲 Op.19」「交響的練習曲 op.13」が収められた中古CDが入っていました。ブランディーヌ・ヴェルレのCDについては、これからじっくり聴いた上で記事にしようと考えていますが、今回はマリア・ティーポのCDについて紹介したいと思います。

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こちらが今回、私が入手した「EMI/ 初期仏盤 マリア・ティーポ シューマン 子供の情景 Op.15 花の曲 Op.19 交響的練習曲 op.13」(CD)

これまで何度もマリア・ティーポについては記事にしていますが、彼女は私にとって特別なピアニストです。彼女の演奏は中庸という言葉がぴったりの、見事なテクニックに支えられた骨太で、かつイタリア人らしい歌心に溢れた豊かな音楽性に溢れたものです。特にシューマンの演奏においては、時には気まぐれで小難しいとも思える「ロマンティック(「形式にとらわれない」という意味です)」なシューマンの音楽が極めて分かりやすく、親しみやすいものとなっています。これらは以前、彼女の弾くシューマンの「ダヴィッド同盟舞曲集」「ピアノ・ソナタ第二番」が収められたレコードで感じたことですが(以前、彼女のシューマンのレコードを入手したときの記事はこちら→https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2021-05-04、今回入手したCDにおいても、まったく同じ感想を持ちました。

何といってもテンポが素晴らしいです。少しゆっくりとしたテンポで丁寧にシューマンの音楽を紐解いていきます。私はこれまで「交響的練習曲」では、リヒテルの弾く、デモーニッシュとも言えるダイナミックレンジの広い演奏(1971年、スタジオ録音)に魅せられ続けていたのですが、これからは彼女の弾く演奏がデフォルトになりそうです。

惜しむらくは、彼女の弾くシューマンの演奏(CD、レコード)が非常に入手困難であり、気軽に聴くことができないことです。Youtubeには「子供の情景」の演奏はアップされているものの、この「交響的練習曲」や「花の曲」、以前紹介した「ダヴィッド同盟舞曲集」「ピアノ・ソナタ第二番」の演奏は、インターネット音楽配信サービス「Spotify」でも配信されておらず、幻の録音となっています。

いつかブランディーヌ・ヴェルレ同様、マリア・ティーポの録音もBOXセットのような形で、纏めて気軽に聴けるようになると良いのですが… こうして埋もれたままにしておくには、余りにももったいないと思います。機会があれば是非聴いてみて下さい。本当に素晴らしい演奏だと思います。


こちらは以前も紹介した、Youtubeにアップされている「Maria Tipo ~ Schumann Kinderszenen, op 15」

また、私がこれまでマリア・ティーポのことを書いた記事はこちらです、もし良かったら読んでみて下さい。
「今頃になって、マリア・ティーポというイタリアの女性ピアニストを知りました(1)」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2020-06-29
「今頃になって、マリア・ティーポというイタリアの女性ピアニストを知りました(2)」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2020-08-04
「横浜の中古レコードショップでとても珍しいレコードを手に入れました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2021-05-04
「ネットオークションでイタリア人ピアニスト、マリア・ティーポのCDを運良く安価で入手しました」
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「またまた、イタリア人ピアニスト、マリア・ティーポのCDを入手しました」
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「マリア・ティーポが弾くクレメンティのソナタ集のレコードを入手しました」
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「マリア・ティーポの弾くモーツァルトピアノ協奏曲集のCDを入手しました」
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マリア・ティーポの弾くモーツァルトピアノ協奏曲集のCDを入手しました [私の好きなピアニスト]

先週の金曜日に勤務先に出社すると、執務室に郵便物が届いていました。急いで開封すると出てきたのは、アマゾンで安価で中古盤が出品されているのを見つけて注文した、イタリアのナポリ出身のピアニスト、マリア・ティーポ(Maria Tipo 1931年~)の弾くモーツァルトピアノ協奏曲集のCD(二枚組、国内盤)です。

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マリア・ティーポ「モーツァルトピアノ協奏曲集」(CD二枚組国内盤)

このCDはタワーレコードの企画盤でして、1990年、1991年にフランス。パリで録音されたモーツァルトのピアノ協奏曲第21番、第22番、第23番、第27番の演奏が収められています。伴奏はアルミン・ジョルダン指揮パリ室内管弦楽団ですが、この室内オーケストラは1978年にジャン=ピエール・ヴァレーズらにより設立されたものです。

マリア・ティーポについては、これまで何度も記事にしていますが、私の大好きなピアニストです。その演奏はイタリア人らしい明るく骨太かつ豊かな音楽性に溢れたもので、飽きることがありません。今回入手した演奏は彼女が60歳位のころのものとなるのですが円熟したもので、「中庸」という言葉がぴったりの素晴らしいものとなっています。

これらのピアノ協奏曲は、それこそモーツァルト遺した曲のなかでも特に名曲として知られているものばかりでして、他のピアニストによる数多くの名演奏があります。それらと比べても本演奏はトップクラスであることは間違いありません。特に第22番、第23番、第27番についてはこの録音が彼女の唯一のものとなりますので(第21番については1956年、1983年の録音があります)、その点ではとても貴重なものとなります。

これらの優れた演奏の中でも、私は彼女によるピアノ協奏曲第23番の演奏には心打たれました。第一楽章、第三楽章もさることながら第二楽章 アダージョ 嬰ヘ短調の演奏は見事なもので、この曲の決定盤といっても過言ではないかと思います。さすがイタリア人、歌わせれば本当に上手いなあと嘆息します。まるでミューズがそのまま舞い降りてピアノを弾いているかのようです。聴いているうちに自然と涙が零れてきます。これは本当に素晴らしいものです。

こうして私は彼女の弾くモーツァルトピアノ協奏曲集を楽しみました。マリア・ティーポは私にとって、とても大事なピアニストです。これからも彼女の演奏を地道に探していきたいと思っています。


こちらはYotubeにアップされている、現時点で再生回数770万回を超える「Hélène Grimaud – Mozart: Piano Concerto No. 23: II. Adagio」。こちらも素晴らしいものです。


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