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ファン・ホセ・サエールの「孤児」を読み終えました [本を読んでいる]

先週の金曜日、九州の実家に向かう機内の中でファン・ホセ・サエール(Juan Jos´e,Saer 1937~2005年)の「孤児」を読み終えました。内容は、

舞台は16世紀の大航海時代、見果てぬインディアスを夢見て船に乗り込んだ「私」が上陸したのは食人インディアンたちが住む土地だった。「私」は独り捕らえられ、太古から息づく生活を営む彼らと共に過ごしながら、存在を揺るがす体験をすることになる…。無から生まれ、親もなく、名前もない、この世の孤児となった語り手を通して、現実と夢幻の狭間で揺れる存在の儚さを、ボルヘス以後のアルゼンチン文学を代表する作家が描き出す破格の物語。
(以上、「BOOKデータベース」からの引用)

というのもので、後半部分はこの語り手の、インディアンの生活に対する哲学的な思索が殆どとなり、その思索を通じて、作者は世界の成り立ちまでをも解き明かしていきます。このように書くと、非常に理屈っぽい小説ではと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、文体自体はとても文学的ではあるものの、読み難いものではありません。

これらの話が、全て作者の創作によるもので、その基となったのが、作者がホセ・ルイス・ブサニチェ著「アルゼンチンの歴史」(1959)を読んでいる時に出会った、フランシスコ・デル・ブエストなる人物に関する、わずか14行の記述であったという、「訳者あとがき」での解説はとても興味深いものです。作者の想像(創造)力の素晴らしさにはただただ驚かされるばかりです。

まだ、世界には私の知らない多くの素晴らしい小説があります。その一冊にこうして出会う事ができました。とても良質な読書経験を得ることができ、作者と訳者の方々に感謝する次第です。

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写真はファン・ホセ・サエール「孤児」(水声社)

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