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レイラ・スリマニ著「ヌヌ 完璧なベビーシッター」を読み終えました [本を読んでいる]

先日、モロッコに生まれ、フランスで活躍する作家・ジャーナリストであるレイラ・スリマニ(Leïla Slimani 1981年~)の小説「ヌヌ 完璧なベビーシッター(原題は「Chanson douce (優しい歌)」)」を読みました。以前、読み終えた本(フエンテス「アルテミオ・クルスの死」)を図書館に返却しに立ち寄った際に、書棚を眺めていて、ふと気になって本書を手にし、この小説が2016年の、フランスで最も権威のある文学賞のひとつであるゴングール賞に選ばれた本であることを知り、思い切って借りてきたものです。

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レイラ・スリマニ著「ヌヌ 完璧なベビーシッター」(集英社文庫)

私はこれまで、ゴングール賞受賞作は意識して読むようにしていたのですが、ここ最近は、ほとんど読んでいませんでした。久しぶりのフランスの現代小説、それもゴングール賞受賞作ということで、とても期待しながら読み始めました。内容は、

パリ十区のこぢんまりしたアパルトマンで悲劇が起きた。子守りと家事を任された“ヌヌ”であるルイーズが、若き夫婦、ミリアムとポールの幼い長女と長男を殺したのだ。そしてルイーズも後を追うように自殺を図り―。子どもたちになつかれ、料理も掃除も手を抜かない完璧なヌヌに見えたルイーズがなぜ?事件の奥底に潜んでいたものとは!?
(以上、「BOOK」データベースの「内容紹介」の引用)

というもので、ミステリー仕立ての小説となっています。読者は最初に、ベビーシッターのルイーズが、若き夫婦、ミリアムとポールの幼い長女と長男を殺したことを教えられますので、その事件の背景と犯人の動機がどういうものだったのかについて興味を掻き立てられながら、読み進めることになります。とはいえ、この小説では、最後まで殺人の動機が明確に示されることはありません。ですので、それは読者の想像に任せられることとなります。そこに私は不満というか、「はたして本書は小説と言えるのか?」という、素直な疑問を抱く結果となりました。

ただ、本書が(フランスの)現代社会における、様々な、繊細かつ深刻で、解決困難な諸問題の提起を行っていることは私でも十分理解できます。本書が、ゴングール賞に選ばれた理由も、多分、そこにあったのではないかと推察します。欧米的な個人主義というか、そうした考えに基づいた生活の裏に、大きな(若しくは多くの)「罠」があるということなのでしょう。私のような、日本という島国のぬるま湯にどっぷり浸かり、何も考えずに暮らしている者には到底気づかない(というか、気づこうともしていない)こうした繊細な問題について、意識、そして視座を持つ必要があると自戒した次第です。

こうしてふり返ってみると、なかなかエキサイティングな読書体験を得たことに気付かされます。ただ、やっぱり、著者は本書においては、小説家としての責任を最後に放棄してしまったのではないかという思いに囚われてしまいます。その一点において、私は本書を、他の方に勧めようとは思えませんでした。今回、こうして言い切っていますが、私の読書力不足で本書をきちんと読み切れていない可能性も否定できないです(汗)。もし、私の根本的な理解不足があるようでしたら、(私のメールアドレスはプロフィール欄に載せていますので)ご教示いただければ幸甚です。


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