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山田清機著「寿町のひとびと」を読み終えました [本を読んでいる]

昨日、自室で山田清機著「寿町のひとびと」(朝日新聞出版)を読み終えました。この本は2020年の秋に出版された、横浜市内の一等地の一角、幅200メートル、奥行き300メートルの中に120軒の簡易宿泊所があり、6000人を超える人々が宿泊するという「ハマのドヤ街」として知られる中区寿町の、住人や関係者からの聞き取りを中心に、6年間に亘って取材したノンフィクションです。出版されたときには新聞等で話題となり、私も読んでみようと思いながら、いつの間にか失念していたものです(汗)。先日、中区伊勢佐木町の有隣堂を訪れたときに、この本が大きく紹介されているのを見て思い出し、慌てて図書館から借りてきました。

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山田清機著「寿町のひとびと」(朝日新聞出版)

寿町は私にとって「近くて遠い町」です。1996年から2010年までの15年近くの間、私は寿町の最寄り駅である京浜東北線石川町駅から中村川を超えて一駅ほど大船駅寄りとなる山手駅の近く、小高い丘にある根岸森林公園の真向かいにあるマンションに住んでいました。そのため、車で桜木町方面に行くときには、常に、この寿町を横目で眺めていましたし、二度ほどドヤ街近くのスナックや飲み屋で、伊勢佐木町に住む会社の同僚たちとお酒を飲んだり、カラオケで歌ったりしたこともあります。夏はゴミと排泄物のすえた臭いが漂い、冬になると路上で簡易宿泊所の住人たちがタイヤを焼いて焚き火をしていて、その異臭がしたりと、ドヤ街ならではの一種異様な雰囲気にはさすがに近寄りがたいものを感じつつも、(興味本位といってしまえばそれまですが)一体、どんな人がどんな暮らしをしているんだろうと思っていました。

この本では、このドヤ街の簡易宿泊所の住人や、寿町にある酒屋や交番、そして保育所や福祉センター、生活自立支援センターの関係者やプロテスタント教会の牧師へのインタビューを中心に、この町がドヤ街となった歴史、そして労働者の町から今の、行き場のない高齢者たちの最期の住処となった(寿地区に暮らす60歳以上の97%が生活保護受給者だそうです)今の状況、そして付近の路上生活者たちの生活とボランティアの取り組みといったものが詳しく書かれています。

インタビューを通じて、著者は常に、自分は「こっち側」の人間なのか、それとも「あっち側の人間」なのかと、自分に問いかけます。普通に考えれば、まっとうな生活を送っている「こっち側」の人間なのだろうとは思うものの、この本を読んでいると、その境は実は曖昧で、やすやすとどちらにも行き来することができるものかもしれないと思わせるものがあります。私は、この本を読んで、ドヤ街の住人たちが、ある意味、めちゃくちゃ人間っぽいっと同時に、とことん冷めているように感じられたのがとても印象的でした。どちらも「自分」しか信じていない人々が、一方は(まるで聖人のように)生活困窮者の支援をしたり、そしてもう一方が、その助けを受けていたり、支えられたりしているように思われたのです。

寿町は、むきだしの「極限」の町です。そこに日本の未来、ひいては人類の未来をも垣間見たような気がするのは私だけでしょうか。久しぶりに読んだノンフィクションですが、私はとても興味深く読みました。


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