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台湾の作家、呉明益の長編小説「自転車泥棒」を読み終えました [本を読んでいる]

昨夜、自室で台湾の作家、呉明益(ウー・ミンイー 1971年~)の長編小説「自転車泥棒」(原題「單車失竊記」)を読み終えました。私は、この本を読了するのに苦労しました。一度、貸し出し予約をした図書館から借りたものの、結局、最初の100頁ほどで挫折、そしてもう一度図書館から借りて、最初から読み直して、今回、何とか読み終えることができました。

小説が面白くなかったとか、難解だったので、一度、読むのに挫折したという訳ではありません。原因は私でして、長い間、小説を読まなかったので、私の本を読む力が衰えていたためです。これは皆さんも、頷いて頂けるかと思うのですが、本を読むには「力」がいります。すばらしい作品を読む時はなおさらです。その上、歳も関係しているような気がします。歳をとればとるほど、脳は老化してしまい、小説をよむ能力(特に想像力と記憶力)は低下してしまいます。これは防ぐ方法は本を読み続けるしかないと思います。今回、まさしく実感した次第です。

私が彼の作品を読むのはこれで二冊目、三年前に連作短篇集である「歩道橋の魔術師」を読んで以来(この時の記事はこちら→https://syoso-chunen.blog.so-net.ne.jp/2016-07-04となります。といっても現在、日本で出版されている彼の作品はこの2冊のみです。この小説は「父の失踪とともに消えた自転車は何処へ――。行方を追い、台湾から戦時下の東南アジアをさまよう。壮大なスケールで描かれる大長編(以上Amazon「内容紹介」からの引用)」でして、著者、呉 明益の、作家としてのすばらしい力量を感じとることが出来る作品となっています。久々に長編小説が与えてくれる読書の快楽を、十二分に得ることができました。特にゾウ、として動物園を巡るエピソードには心を打たれました。

本書のことで触れなくてはならないのは訳者の天野健太郎氏の事です。この誠実な訳者はこの本が出版された2018年11月に時を同じくしてすい臓がんのために48歳の若さで亡くなりました。私は彼の死を、この本を読了して、インターネットでの書評を探していたときに知りました。前回の「歩道橋の魔術師」の訳、そして「訳者あとがき」での見事な解説は、私を一気に台湾現代文学の世界にいざなってくれました。本書でも見事な「訳者あとがき」で読後の余韻を満たしてくれただけにとても残念でなりません。ここに心よりご冥福をお祈りします。

久しく忘れていた読書の悦びを味わうことができました。著者の呉明益氏、そして訳者の天野健太郎氏には感謝してもしきれません。本当にありがとうございました。とてもよい小説と訳でした。

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呉明益「自転車泥棒」(文芸春秋)


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