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私の好きなピアニスト(3)-ユーラ・ギュラー(Youra Guller) [私の好きなピアニスト]

私がユーラ・ギュラー(Youra Guller, The Romanian Jewish pianist 1895~1980)のことを知ったのは、ちょうどドイツに赴任していたときに、会社の目の前にあったCDショップで「ユーラ・ギュラーの芸術(The Art of Youra Guller)」(lebel:Nimbus)というCDを見つけ、何の気なしに手に取ったときからです。そのCDのジャケットには、戦前の写真なのでしょうか?若い女性の顔写真がアップで載っており、その、まるで映画女優のような上品さと美しさに惹かれて、その人となりをまったく知らなかったのですが、つい購入してしまいました。聴いてみると、とても写真通りの、上品かつ豊かな感性を示す演奏ながらも、時折、ちょっと尋常ではないパッションも感じられるもので、並のピアニストではないことは明らかでしたが、何回か聴いた後、CDラックにしまわれたままとなっていました。

その後、日本に帰国し、何年も経ったある日、とあるサイトでユーラ・ギュラーの弾いたベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番、32番の演奏を紹介する記事を読み、以前、そのドイツで購入していたCDを再度聴いてみて、その内容の素晴らしさを改めて気づき、慌てて彼女のベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番、32番の演奏を探し始めました。既に、エラート盤のベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番、32番の演奏は廃盤になっており、中古レコード屋やインターネットで探しても見つからず、たまにE-bayで出品されてもすぐに入札が集中し、百ドルを超える高額でないと落札できず、なかなか手に入れることが出来ませんでした。そうして探しているうちに、ある個人のサイトでこのCDを所有している方を知り、「なんとか聞いてみたいのだが」とメールを出してみたところ、「それではダビングして差し上げましょう」と厚意に預かることが出来、やっと、聴くことができました。期待に胸を膨らませて聴いたその演奏は本当に音楽性豊かで、素晴らしいものでした。未だに私の知る限り、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番、32番の演奏で、この演奏を超えたものはありません。ピアノ演奏の極致、絶対的な「芸術」としか言いようがないものがこの演奏にはあります。

色々調べてみると、この「ユーラ・ギュラーの芸術」はマルタ・アルゲリッチの必死の説得によってギュラーが78歳で録音したものであること、1909年、14歳でパリ音楽院をプルミエ・プリ(第1位)で卒業したこと(その時の第2位はクララ・ハスキルでした)などが分かってきました。その後、この演奏のレコードやその他の手に入る彼女の録音はほぼ全て入手したのですが、驚くことにこの「幻の名盤」であったエラート盤は昨年、Apexというレーベルから廉価版で再販され、一部のファンを喜ばせました。また、最近はTahraというレーベルが積極的に昔の録音を発掘し、販売していますが、いずれも本当に素晴らしい演奏です。(Tahra盤でのライブ演奏やNimbus盤の晩年のショパンのバラード4番の演奏などには演奏上の瑕がありますが、それでもそれを上回る非常に高い芸術性を感じとることができます)本当に素晴らしい、私にとって大事な「幻のピアニスト」です。

最初に紹介したNimbus盤のCDですが、レコードで発売されていたときとはジャケット(及び一部収録曲)が異なります。レコードの方のジャケットは眼鏡をかけた彼女の晩年の笑顔のアップの写真です。その顔写真は(失礼ながら)皺も多く、若い時の美貌は失われていますが、こういう風に歳を取りたいものだと思わせる、何とも味わいのある、素晴らしいものです。

ユーラ・ギュラー…まさしくピアノの女神といって良いのではないでしょうか。
(注)ヴァイオリニストのジャック・ティボーは彼女を「音楽の女神」と呼んだそうです。

The art of youra guller.jpg
youra guller.jpg
写真はYoura Guller 「The Art of Youra Guller 」(上がCD盤、下がLP盤。LPのみに収録されているのはスカルラッティのソナタ3曲で、LPには収録されてあらず、CDのみに収録されているのはショパンのバラード4番とグラナドスの作品2曲です)

(2016.4.28追記)
「ユーラ・ギュラー(Youra Guller)」で検索して、この記事を読む方が多いので、私のこれまで書いた記事のうち、彼女の演奏について紹介した他の記事へのリンクを以下、貼っておきます。興味のある方は是非、読んでみてください。
「ユーラ・ギュラーの初出音源である2曲の協奏曲を聴いて…」
 →http://syoso-chunen.blog.so-net.ne.jp/2011-05-29
「部下の御尊父の葬儀に出席するため日帰りで金沢を訪れ、そこで中古レコードを購入しました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2016-01-05
「お気に入りのバロック専門のインターネットラジオ局から、とてもロマンティックなピアノ曲が流れてきました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2019-08-22