SSブログ

呉 明益著「複眼人」を読み終えました [小説を書いている]

先ほど、会社の執務室で台湾の現代小説家、呉 明益(ウー・ミンイー 1971年~)の長編小説「複眼人」(KADOKAWA)を読み終えました。彼の作品を読むのは「歩道橋の魔術師」(原題「天橋上的魔術師」)、「自転車泥棒」(原題「單車失竊記」)に続いて三作目となります。特にこの「複眼人」は、私にとっては、5年前に彼の作品に初めて接した時から読んでみたいと思っていた小説(台湾では2011年に出版されました)でして、その後、英訳された洋書も購入しながらも、(私の未熟な英語力のせいで)読むことができないままとなっていたものです。そのような経緯もあって、今年4月にKADOKAWAから邦訳が出てからというもの、図書館で借りれるようになるまで何度も図書館のサイトでチェックし、やっと、こうして借りることができました。

81eiKO77NWL.jpg
呉 明益「複眼人」(KADOKAWA)。カバーの絵は作者本人によるものです。

ちなみにこれまで呉 明益の小説について私が書いた記事は以下のとおりです。
「呉明益著「歩道橋の魔術師」を読み終えました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2016-07-04
「台湾の作家、呉明益の長編小説「自転車泥棒」を読み終えました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2019-06-29

本書は、

時に美しく、時に残酷な、いくつもの生と死が交差する、感動長編。
次男が生きられぬ神話の島から追放された少年。自殺寸前の大学教師の女性と、山に消えた夫と息子。母を、あるいは妻を失った先住民の女と男。事故で山の“心”に触れた技術者と、環境保護を訴える海洋生態学者。傷を負い愛を求める人間たちの運命が、巨大な「ゴミの島」を前に重なり合い、驚嘆と感動の結末へと向かう――。
人間と生物、自然と超自然的存在が交錯する世界を、圧倒的スケールと多元的視点で描く未曾有の物語。
(以上、Amazonの「複眼人」のサイトからの引用です)

というものでして、非常に多くの人物が登場し、そして彼らの抱えた個々の、そして共通する様々なテーマについて語られた、まさしく「複眼的」な物語となっています。私の読後の正直な感想は、呉 明益氏にはもっともっと詳しく、個々の登場人物、テーマについて書いて欲しい、今の本の厚さの三倍くらいになっても良いから書いて欲しかったという、何とも我儘なものでした。好き勝手に言わせてもらうと、本書の前半部分については申し分ないものの、途中、中盤あたりから物語は少し足踏みしてしまいます。そして、その遅れを取り戻すように終盤は一気に駆け足になってしまったような印象を受けます。それが少し残念に思いました。意地悪な言い方をすれば、多くの魅力的な登場人物、そして多くのテーマを「複眼的」に扱ったあまり、ものによっては中途半端な印象となってしまい、物語の焦点が少しぼやけてしまった感じがします。

逆に言えば、それだけ本書は極めて現代的というか、多種多様な魅力に溢れていると言えるのかもしれません。実際のところ、私はこの小説にそれこそ夢中になり、そして一気に読み終えました。とても充実した読書体験を得ることができました。

作者の呉 明益は2019年には「雨の島」(原題「苦雨之地」)を発表しています。今はこの小説が早く邦訳されることを祈るばかりです。


こちらはYoutubeにアップされている「Bob Dylan - A Hard Rain's A-Gonna Fall (Audio)」。本書において、この歌は重要な意味を持ちます。


そして、こちらがYoutubeにアップされている、この小説中でも紹介されている台湾のシンガーソングライター、パナイ·クスイの動画「巴奈│白米酒 │勇士與稻穗 演唱會紀實」。彼女は台湾の先住民族、阿美(アミ)族と卑南(プユマ)族のハーフでして、先住民の権利、地位保全に係る社会活動家としても良く知られています。