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帰りの通勤電車の中で、松尾スズキ著「老人賭博」を読み終えました [本を読んでいる]

一昨日の帰りの通勤電車内で、松尾スズキ著「老人賭博」(文春文庫)を読み終えました。この本は、私が北九州市八幡西区黒崎で小中高校生時代を過ごしたことを知っている会社の同僚(彼自身は北九州市門司区出身)が「〇〇さんの故郷が舞台となっている小説で、そーとーくだらないですけど、読んでみます?」と貸してくれたものです。あまり気乗りはしなかったものの(汗)、せっかく貸してくれたのだからと読んでみました。

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松尾スズキ著「老人賭博」(文春文庫)

コメディ映画だけが救いの若きマッサージ師・金子堅三は、客として出会った映画監督・海馬五郎に「弟子入り」することに。はじめての撮影現場は、北九州のさびれたシャッター商店街だった。そこでスタッフやキャストが退屈しのぎにはじめた賭けは、78歳にして初主演の老優・小関泰司のNG回数を当てるというものだった……。
賭けねば、へたれだ。逃げ場はない! 北九州のシャッター商店街が心ない賭博のワンダーランドと化す──。映画撮影に打ち込む人々の心の黒さと気高さを描く爆笑&涙の小説。(以上「Amazon」の松尾スズキ著「老人賭博」商品ページからの引用です)

著者である松尾スズキ氏も北九州市八幡西区の出身ということもあってか、今はさびれたシャッター商店街と化した黒崎の街と、そこにたむろするしょうもないヤンキーをはじめとした怪しい人々の様子が、本当に生き生きと、屈折した愛情を込めて描写されていて、私も思わず引き込まれました。それにしても話自体は「極めてオーソドックスなスラップスティック・コメディ」(文庫本のケラリーノ・サンドロヴィッチ氏による「解説、あるいは解説にかえて」からの引用)よろしく、なんともくだらないものながら、市井の人間のバカバカしさというか悲しい性のようなものを見事に泣き笑いへと昇華させる著者の筆力には感心しました。

小説の中で黒崎は「白崎」になり、センセイは多分著者自身なのでしょう。そして小関泰司のモデルは間違いなく名脇役俳優でありエッセイストとしても知られた殿山泰司(とのやま たいじ 1915〜1989年)なのだと察することができます。他の登場人物たちも、分かる方には誰がモデルになっているのか容易に想像がつくのでしょう。もう、それだけで、この小説の面白さは確約されたようなものです。その中でも主人公の金子堅三は、小説の上では狂言回しのような役ながらも、著者の創作なのかもしれませんが、ひときわ際立った、個性的で魅力的な人物に感じられました。

ちなみにこれまで私が殿山泰司氏の著作について書いた記事はこちらとなります。
「横浜 伊勢佐木町の古本屋で、懐かしい文庫本を購入してしまいました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2022-02-17
「「殿山泰司ベストエッセイ」を読みました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2022-03-09

私は、それなりに面白く、この小説を読みました。これから機会を見つけて彼の他の小説を読んでみたり、舞台も観てみたいなぁと思った次第です。


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