SSブログ

自室で、夭折のフルート奏者 加藤恕彦の遺したレコードを聴きました [音楽を聴いている]

前に、佐藤紀雄(1951年~)の弾く、武満徹(1930~1996年)が選んだポピュラー・ソングのクラシック・ギター用の編曲集「12の歌・地球は歌っている」が収められたレコードを聴いたことを書きましたが(その時の記事はこちら→https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2019-12-20-1、実は一緒に「加藤恕彦フルート・リサイタル-日本の生んだ若き天才の遺産」と名付けられた古い中古レコードも入手していました。

20191218011752_IMG_0191.JPG
20191218011927_IMG_0192.JPG
こちらが今回、私が入手したレコード「加藤恕彦フルート・リサイタル-日本の生んだ若き天才の遺産」

これは1962年12月17日、パリ、エコール・ノルマルでのリサイタルの記録です。加藤恕彦(1937~1963年)は慶應大学在学中にパリに留学、1960年6月にパリ音楽院を卒業。卒業コンクールでフルート科第一位首席となり、その後、61年3月には同音楽院室内楽クラスを第一位首席で卒業、すぐにフランス人指揮者ルイ・フレモーの推薦で、異例の若さでモンテ・カルロ国立歌劇場管弦楽団首席フルート奏者に就任したという、輝かしい経歴を誇ったフルート奏者です。その後の活躍が期待されながらも1963年8月にモンブラン山中で妻、マーガレットと共に消息を絶ち(クレバスに滑落したものと考えられています)、26歳の生涯を閉じました。

私は、以前からこの夭折のフルート奏者のことは(以前、音楽雑誌の記事を読んだからだと思うのですが)何となく知っていました。今回、偶然、横浜 関内の中古レコード・CDショップでこのレコード(中古)を見つけ、(思いのほか安価だったこともあり)思い切って購入してみたというわけです。

レコードはフルートとピアノ(北川 正)による演奏でして、A面はバッハ「フルートソナタ第2番 変ホ長調」とテレマン「フルートソナタ ヘ短調」、そしてB面はシューベルトの「《しぼめる花》の主題による序奏と変奏」と日本人作曲家、丹羽明のフルートソナタが収められています。一聴して、彼の余りに豊かな才能に驚かされました。これは紛うことなき本物の才能です。特にB面の2曲の演奏は素晴らしく、聴くものを感動させます。それだけに、これらの演奏を聴いていると、残念というか、切ない気持で一杯になります。もし、このまま活躍していたら、世界を代表するフルート奏者になっていたことは間違いなかったかと思います。

以前、旧ソ連ウクライナ共和国の生まれのピアニスト、ローザ・タマルキナ(Rosa Tamarkina 1920~1950年)の遺した録音を聴いた時にも書きましたが(その時の記事はこちら→https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2013-06-19、才能が十二分に開花するまえの蕾のまま、残念ながら、若くして亡くなった方の演奏を聴くというのは、私にとっては、ただただ残酷なことをしているような気がしてなりません。これらの録音はレコード(記録)としての意義は認めますが、私にとっては、辛く、そして悲しいものに感じられてしまいます。

辛い感情に支配されながらも、私は彼の演奏に感動し、涙が溢れそうになりました。運命は時に、才能ある者に残酷であったりします。今更ながらというか、没後56年を過ぎてはいますが、私は加藤恕彦という、若くして亡くなった、才能に溢れたフルート奏者の突然の死を静かに悼みました。

(2021年3月1日追記)
その後、彼の「アルプス山嶺に消ゆ/加藤恕彦の芸術(ソナタ編)」という、プロコフィエフやヒンデミットのフルート・ソナタのライブ演奏等が収められたレコードも入手して、聴きました。その時の記事はこちらとなります。もしよかったら、読んでみて下さい。
「九州、大分の実家に三か月ぶりに帰省しました」
 →https://syoso-chunen.blog.ss-blog.jp/2020-10-23


共通テーマ:日記・雑感