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ピアソラ自身が最良の録音として挙げた「ラ・カモーラ:情熱的挑発の孤独」について [音楽を聴いている]

前の記事で、アストル・ピアソラ(Astor Piazzolla 1921~1992年)の最晩年のアルバムでとなる「現実との57分間」を紹介した際に、「タンゴ・ゼロ・アワー」「ライブ・イン・ウィーン」の二作を名盤の誉れ高いアルバムとして紹介しましたが、記事をアップした後になって、ピアソラがインタビュー時に、自身の最良の録音として挙げたのは、五重奏団で最後に録音した「ラ・カモーラ」であったことを思い出しました。今回はこのアルバムについて紹介したいと思います。

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アストル・ピアソラ「ラ・カモーラ」(CD)

ピアソラ・ファンの方なら、このアルバムはご存じかと思います。アメリカン・クラーヴェ・レーベルから発表された本作(1988年録音)、「ラフ・ダンサー・アンド・ザ・シクリカル・ナイト(タンゴ・アパシオナード)」(1987年録音)、そして前に紹介した「タンゴ・ゼロ・アワー」(1986年録音)は、1980年代後半の後期五重奏団の三部作として、ピアソラの音楽芸術の絶頂期の記録として知られています。

この「ラ・カモーラ:情熱的挑発の孤独」(原題「La Camorra:La Soledad de la Provocation Apasionada」)には7曲が収められていますが、なんといっても、アルバムタイトルにもなっている「ラ・カモーラ Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」の大作3曲が注目されます。スタイリッシュでありながら非常に密度が濃く、単なる「タンゴ」というジャンルを越えた音楽作品となっています。ピアソラ芸術の全てが盛り込まれているといっても過言ではないと思います。

彼の音楽を聞いて、「人生」を感じないリスナーはいないでしょう。その点こそが彼の音楽を唯一無二のものとしていると思います。それはパッションであり、孤独であり、愛であり、そして慰めでもあります。そう、まさしく「タンゴ」なのです。

残りの4曲も非常に高水準の曲ばかりで、このアルバムの価値を高めています。やはり本人の言った通り、このアルバムはピアソラ最良の録音であることを論を俟たないかと思います。

数多ある音楽の中でも、聴く前と後で何か自分が変わってしまうような、聴く者の人生を変えてしまうような音楽は、そうはないかと思います。まさしくピアソラの音楽はそれであり、時代を越えた普遍性を持っています。

これからも折にふれて、私はピアソラの音楽を聴くことになるのでしょう。それは本当にエキサイティングな経験です。